ラピスラズリの見分け方を調べると、除光液でこすって色落ちを見る、金色の粒があれば本物、といった方法が並びます。ただし、「偽物」と呼ばれるものには性質の違う3つがあり、方法によっては本物のラピスラズリまで傷めてしまいます。
先に結論をお伝えします。
ラピスラズリの「偽物」には、ガラス・プラスチック・セラミックなどで作られた模造品、ソーダライトや青く染めた別の石、そして染色やワックス処理をされたラピスラズリの3つがあります。GIA(米国宝石学会)は、見た目がとても自然で金色のパイライトの粒まで入った模造品を報告しており、色の美しさや金色の粒だけでは本物と決められません。除光液やアルコールでこする、削る、熱や酸を使うといった方法は、GIAなどの資料によると、染色やワックス処理のある石の色や表面を傷めることがあります。家でできるのは、傷めずに見ることと書類の確認までで、本物かどうか・処理があるかは、鑑別で確かめます。
この記事では、「偽物」の3つの区分、それぞれの中身、家で試す方法が石に何をするのか、傷めずに見られるところとその限界、鑑別書に何が書かれるのかを、GIA・中央宝石研究所(CGL)などの資料をもとに整理します。家で試す方法については、手順ではなく、石に起こりうることだけをお伝えします。
ラピスラズリの「偽物」は3種類|模造品・似せた別の石・処理されたラピスラズリ

ラピスラズリは、青い鉱物を中心に、金色のパイライトや白いカルサイトなどが集まった岩石です。GIAも中央宝石研究所も、ラピスラズリを岩石として説明しています。石の成り立ちは「ラピスラズリとは」の記事で詳しく説明しています。
「偽物」とひとまとめにされるものは、次の3つに分けられます。
| 区分 | 中身 | ラピスラズリか | 主な資料 |
|---|---|---|---|
| 模造品 | ガラス・プラスチック・セラミックなど、人の手で作られた素材。ギルソンの品もここに入る(GIA・中央宝石研究所の分類) | ラピスラズリではない | GIA・中央宝石研究所 |
| 似せた別の石 | ソーダライト、青く染めたハウライトやジャスパーなど、天然の別の石 | ラピスラズリではない | IGS(International Gem Society)・GIA |
| 処理されたラピスラズリ | 色をよく見せるための染色、ワックスやオイルの含浸を行ったもの | ラピスラズリである | GIA |
模造品と似せた別の石は、そもそもラピスラズリではありません。一方で、処理されたラピスラズリは、石そのものはラピスラズリで、色や表面の見え方に手が加えられています。「本物か偽物か」を考えるときは、この3つのどれを確かめたいのかを分けておくと、確かめ方の違いが見えてきます。
模造品と、ラピスラズリに似せた別の石|ギルソン・セラミック・ソーダライト・スイスラピス

人の手で作られた模造品
GIAは、ラピスラズリの模造品としてガラス・プラスチック・セラミックを挙げています。GIAの模造品の解説では、次のように説明されています。
- セラミック:模造ラピスラズリはセラミックの製法で作られる。細かく砕いた粉末を加熱し、ときに圧力をかけて固めたもの
- プラスチック:ヒスイ・トルコ石・ラピスのような、複数の鉱物が集まった素材の模造品にも使われる。耐久性は高くない
ギルソンの品は「合成」か「模造」か
フランスのギルソンは、1970年代の初めにラピスラズリに似せた品を発表しました(GIA)。これを「合成」と呼ぶ解説もあります(IGS)。一方でGIAは、成分と物理的な性質の一部が天然のラピスラズリと異なるため、模造品と考えるほうが正確だと説明し、見かける頻度はまれとしています。中央宝石研究所の用語辞典にも「P.ギルソンによって模造ラピス・ラズリもつくられている」とあります。
呼び方は資料によって異なりますが、天然のラピスラズリではないという点は、どの資料でも共通しています。
「練り」「再生」と呼ばれる品
販売の場では、「練り」「再生」といった名前で呼ばれる品もあります。GIA・中央宝石研究所・IGSの解説には、これらの呼び名の定義は書かれていません。
参考になるのは、GIAの学術誌 Gems & Gemology が1991年に報告した例です。「reconstructed(再構成した)」ラピスラズリとして販売されていた素材を調べたところ、見た目はとても自然で、かなり均一な濃い紫みの青に、角ばったパイライトの粒が散っていました。一方で、比重は2.31と、GIAが示すラピスラズリの比重(2.75、幅は±0.25)より低く、強い光の上に置くと天然のラピスラズリより光を通しました。いずれも検査機関での測定です。GIAはこの素材を、模造ラピスラズリの項で報告しています。
名前に「再生」「天然素材」などとあっても、中身が3つの区分のどれに当たるかは、名前からは決められません。
ラピスラズリに似せた別の石
IGSによると、ラピスラズリの代わりに使われるものには、エナメル・ガラス・プラスチックのほか、青く染めたハウライトやジャスパーがあります。染めたジャスパーは「スイスラピス」と呼ばれることがあり、IGSはこれを誤解を招く呼び名だとしています。GIAも、染色は古くからラピスラズリやハウライトなどに行われてきたと説明しています。
またIGSは、ラピスラズリの代用品として通用するほど深い青で、大きなものが手に入りやすい天然の宝石は、ソーダライトだけだとしています。
染色とワックス含浸|本物のラピスラズリに行われる処理と、その検出

GIAの資料には、ラピスラズリへの処理について次のことが記されています。
- 染色:色をよく見せたり、白いカルサイトを隠したりするために行われる
- ワックス・オイルの含浸:染色していないものでも、ワックスやオイルを染み込ませて色と光沢をよく見せることがある
- 検出:これらの処理は、多くの場合、宝石学的な検査で検出できる
GIAの処理の解説は、ラピスラズリを、ワックスやプラスチックを含浸する宝石の代表例の1つに挙げています。同じ解説では、含浸は表面近くだけにとどまることが多く、熱で傷みやすいと説明されています。また、多くの色素はアルコールやアセトンなどの溶剤に触れると落ちることがあり、日光で色があせる色素もあります。
IGSも、染色したラピスラズリの色は、除光液やアルコールといった身近な溶剤に触れるだけで溶けてしまい、そのためワックスやプラスチックで表面を覆うことがあると説明しています。
検出について、GIAは、資格のある宝石学者であれば多くの場合に染色を検出でき、含浸も多くの場合は容易に識別できるとしています。処理されたラピスラズリは、ラピスラズリであることに変わりはありません。そのうえで、処理があるかどうかを確かめるのは、GIAが示すとおり宝石学的な検査の役割です。
家で試す方法が石に何をするか|除光液・アルコール・こする・熱・酸

インターネット上の見分け方の記事には、除光液やアルコールでこすって色落ちを見る、刃物や針で表面をこする、といった方法を紹介するものがあります。ここでは方法の手順ではなく、それぞれが何を確かめようとしていて、石に何が起こりうるかを、資料の記述で整理します。
| 方法 | 確かめようとしていること | 石に起こりうること(資料の記述) |
|---|---|---|
| 除光液(アセトン)・アルコールでこする | 染色されているか | GIA:多くの色素は溶剤で落ちることがある。処理された石は溶剤で表面が傷むことがある |
| 刃物・針などでこする | 表面のワックス・硬さ | GIA:硬度はモース硬度5〜6。含浸は表面近くだけのことが多い |
| 熱を当てる | ワックスや樹脂があるか | GIA:ワックスやプラスチックの含浸は熱で傷みやすい。処理された石は熱で表面が傷むことがある |
| 酸をたらす・こすりつけた跡の色を見る(条痕) | 石の成分 | IGS:塩酸の検査と条痕の検査は石を傷める検査で、専門の宝石学者だけが行うべき |
表の右の列のとおり、これらの方法は、本物のラピスラズリであっても、染色やワックスなどの処理があれば、その色や表面を傷めることがあります。しかも、処理があるかどうかは、試す前には判断できません。除光液で色が落ちるかを見る方法は、染色されていた場合、その色を落とすことで確かめる方法だということになります。
枠に留めたリングや、糸を通したネックレス・ブレスレットでは、石だけに薬品や熱を当てることも難しくなります。なお、GIAが手入れの方法としてすすめているのは温かい石けん水で、スチーム洗浄や超音波洗浄は使わないよう示しています。
確かめるために付いた跡は、確かめ終わっても石に残ります。本物かどうかを知りたいときほど、何も試さない状態で専門家に見せることをおすすめします。
傷めずに見られるところと、その限界|金色の粒・色・表示名・ネックレス

家で石を傷めずにできるのは、石を眺めることと、付いている書類や表示を確かめることです。ただし、どれも本物かどうかの決め手にはなりません。
金色の粒(パイライト)があれば本物か
天然のラピスラズリには、金色に光るパイライトの粒や筋が入っていることがあります(GIA)。しかし、パイライトの粒は本物である証拠にはなりません。前述のGIAの1991年の報告では、模造品にも角ばったパイライトの粒が入っていました。IGSも、ギルソンなどの人工的に作られた品には、パイライトを入れたものと入れないものがあると説明しています。
色が濃く均一なら本物か
GIAによると、ラピスラズリで最も評価が高いのは、白いカルサイトが見えない、均一な濃い青から紫みの青です。ただし、これは品質の見え方の話で、本物かどうかの決め手ではありません。染色は色をよく見せ、白いカルサイトを隠すために行われる処理であり(GIA)、1991年の報告の模造品も、かなり均一な濃い紫みの青でした。
反対に、白い部分や緑がかった部分があることも、それだけで偽物を意味するわけではありません。GIAは、ラピスラズリの色にはわずかに緑みの青から紫みの青まで幅があり、白いカルサイトの筋が入るものもあると説明しています。
商品名・表示名
名前も、中身を決める根拠にはなりません。
- 「スイスラピス」:IGSによると、染めたジャスパーを指す、誤解を招く呼び名
- 地名の付いた呼び名:GIAによると、白いカルサイトの斑点や緑の部分が多いものが「Chilean(チリの)」という呼び名で売られることがあるが、実際にチリ産とは限らない
- 「瑠璃」「ラズライト」:和名の「瑠璃」はガラスの古い呼び名でもあり、カタカナの「ラズライト」は天藍石という別の鉱物も指す。名前の整理は「ラピスラズリの和名」の記事で説明しています
ネックレス・ブレスレット・原石の場合
GIAによると、ラピスラズリはカボション・ビーズ・板などに加工されます。ビーズのネックレスやブレスレット、原石でも、ここまでの見方と限界は同じです。商品ページの「天然」「本物」という表示も、それだけでは確認の根拠になりません。
本物かどうかを確かめるのは鑑別|鑑別書に書かれることと、査定での扱い

鑑別書に書かれること
GIAはラピスラズリの鑑別を行いますが、品質のグレーディングは行っていません。GIAの鑑別書には、天然かどうかと、検出できる処理が記載されます。
日本では、宝石鑑別団体協議会(AGL)が、鑑別書に書く宝石名や、処理があったときのコメントの書き方を規程で定めています。規程には、たとえば着色について「色素による着色処理が行われています。」、ワックスについて「通常、ワックス加工が行われています。」といったコメントの文言があります。
鑑別書を読むときは、宝石名の欄と処理についてのコメントの2つを見ると、この記事の3つの区分のどれに当たるかの手がかりになります。
査定での扱い
SHINKAでは、石そのものの様子、枠の貴金属・デザイン・状態・鑑別書の有無まで含めて、ジュエリー全体として総合的に査定します。信頼できる鑑別機関の鑑別書がある場合は、記載された石種を重要な確認根拠として扱います。宝石全般について、処理の可能性も評価要素として見ますが、断定はしません。
天然か、人工的に作られたものか、模造品かがはっきりしない品も、そのまま査定・ご相談をお受けしています。鑑別書がなくても構いません。何も試していない状態でお持ちいただくのが、石にとっていちばんです。
まとめ|ラピスラズリの本物・偽物を確かめる順番
- 「偽物」には、模造品・似せた別の石・処理されたラピスラズリの3つがあります。前の2つはラピスラズリではなく、処理されたものはラピスラズリです
- 模造品にはガラス・プラスチック・セラミックやギルソンの品(GIA・中央宝石研究所の分類)があり、似せた別の石にはソーダライトや、青く染めたハウライト・ジャスパー(「スイスラピス」)があります
- 除光液・アルコール・こする・熱・酸を使う方法は、染色や含浸のある石の色や表面を傷めることがあります。試さないことをおすすめします
- 金色の粒や均一な濃い青は、本物の証拠になりません。見た目が自然でパイライト入りの模造品も報告されています
- 「スイスラピス」や地名・和名の付いた表示名も、中身を決める根拠にはなりません
- 本物か・処理があるかを確かめるのは鑑別で、鑑別書の宝石名と処理のコメントが手がかりになります
お手元のラピスラズリが本物かどうか気になるときは、何も試さずに、そのままお持ちください。石そのものとジュエリー全体を見て、確かめられることをご説明します。
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