デンマークのメアリー王妃が2026年10月19日、1898年に贈られたサファイアのジュエリーを、新しく作り替えたティアラとして初めて着けました。デンマーク王室の美術品を管理するロイヤル・デニッシュ・コレクションは、この作り替えについて「すべての変更は完全に元に戻せる」と説明しています。
このジュエリーは、ティアラのほか、長いネックレス、短いネックレス、ブローチとしても使えるようになりました。それでも、サファイアやダイヤを留めた古い部品には手が加えられていません。古い部品に手を入れずに、どうやって形を変えたのでしょうか。宝石を留める部分と、全体を組み立てる部分の違いから、専門家の視点で整理します。
※画像はイメージです。記事中の王室のジュエリーを再現したものではありません
参考記事
marie claire「【独占取材】デンマーク・メアリー王妃、128年前のサファイアのティアラを初披露! 宝飾専門家が語る意外なアレンジとは?」
マリ・クレール:https://marieclairejapon.com/celebrity/282913/
128年前のサファイアが、4通りに使えるジュエリーへ
ロイヤル・デニッシュ・コレクションによると、このジュエリーは1898年4月、のちのアレクサンドリーネ王妃が、ロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后から結婚祝いとして受け取ったサファイアの首飾りが始まりです。最初の姿を写した写真は知られていません。
その後、形は二度変わっています。
- 1933年:新しい台座を加え、首飾りとしても、額に沿う低いティアラとしても着けられる組み合わせ式に
- 1960年ごろ:宮廷宝飾店ミケルセンが新しい枠を作り、頭の上に高く載せるティアラに
どちらの作り替えでも、サファイアと花綱(はなづな。花を連ねたような飾り)の部品そのものは残され、新しい台座に組み直されてきました。2024年に王室コレクションが取得し、今回、メアリー王妃と王室コレクション、ジュエリーデザイナーのEmquies-Holstein(エムキエス・ホルスタイン)が協働して作り替えています。
新しいジュエリーは、ティアラ、長いネックレス、首に沿う短いネックレス、ブローチの4通りで着けられます。10月19日の晩餐会では、ティアラとして着けたうえで、ブローチをブレスレットに付けていました。デンマークの王妃がこのジュエリーを着けたのは、1933年以来のことです。
宝石はそのまま、使い方を変える「元に戻せる改作」
※画像はイメージです
今回の作り替えの仕組みは、ジュエリーを2つの部分に分けて考えると分かりやすくなります。
宝石を留める部分と、全体を組み立てる部分
ジュエリーは、宝石を金属で固定する「石留め」の部分と、宝石を留めた部品をつないで全体の形を作る「台座(枠組み)」の部分に分けて考えられます。
このジュエリーの部品は、楕円形のサファイアの周りを小粒のダイヤモンドが囲んだものや、ダイヤを留めた花綱などです。王室コレクションは、今回の作り替えについて、歴史的な石留めは保存し、新しい台座によって使い方を広げたと説明しています。
| 部分 | 役割 | 今回の扱い |
|---|---|---|
| 石留め | 宝石を金属で押さえて固定する | 変えていない |
| 部品の裏の「受け」 | 部品を台座に取り付ける | 部品ごとに新しく作り、裏側に留めた |
| 台座・つなぎの部品 | 部品の並び方と全体の形を決める | ティアラ用の台座や、ネックレス用のつなぎの部品を新しく用意した |
今回足したのは、部品の裏に留める「受け」
王室コレクションの発表によると、デザイナーは部品ごとに専用の「受け」を作り、部品の裏側にそっと留めました。ネックレスでは、この受けどうしを小さなつなぎの部品で結んでいます。受けがあることで、同じ部品をティアラにもネックレスにも組み替えられます。ブローチも、裏の針を外せば、短いネックレスや長いネックレスの一部として使えます。
新しく加えたのは、部品の裏側と、部品をつなぐ外側だけです。受けを外せば、部品は手を加える前の状態に戻ります。「元に戻せる」とは、この意味です。写真も残っていない1898年の最初の姿に戻せるという意味ではありません。
部品に残る3つの層
王室コレクションは、垂れ飾りになるサファイアの部品を例に、過去の作り替えの跡が層になって残っていることを紹介しています。
- いちばん上:サファイアを囲むダイヤを留めた銀の層
- その下:1933年に加わったとみられる金の層
- いちばん下:今回作られた受け
宝石を留めた部分を残し、その外側に新しい部品を重ねてきたため、作り替えの跡が部品そのものに残っています。
専門家の視点で読み解くと
作り替えで最初に考えるべきなのは、どう変えるかより、何を変えないかです。宝石と、宝石を押さえている金属は一体になっています。手を入れる場所が宝石から離れるほど、宝石と元の作りへの影響は小さくなります。今回の改作は、手を入れる場所を部品の裏側と外側に限ることで、宝石と古い石留めの両方を残した例と読めます。
一般的な石の留め替えと、何が違うのか
※画像はイメージです
古いジュエリーを今のデザインに作り替えるとき、よく選ばれるのは、宝石を古い枠から外して新しい枠に留め直す方法です。たとえば、指輪の石をペンダントにするような作り替えがこれに当たります。
この方法では、石を押さえている爪や縁の金属を一度起こして石を外し、新しい枠の金属で石を押さえ直します。そのため、受けを足す方法とは次の点が違います。
- 元の枠:形が変わったり使われなくなったりするため、同じ姿には戻しにくい
- 宝石:外すときと留め直すときに、石と金属の両方に力がかかる
- 熱を使う加工:GIA(米国宝石学会)は、亀裂に樹脂やガラスなどを充填した宝石は熱を避けるよう説明しています。充填はダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドで多くみられるとされ、どのような処理の石かによって、加工で気をつけることが変わります
ただし、留め替えが悪い方法というわけではありません。今の装いに合う一品にしたいなら、宝石を新しい枠に移すのは合理的な選択です。今回の王室の改作は、使い方を広げながら歴史を残すことが目的だったため、古い部品に手を入れない方法が選ばれました。
また、王室の例は、博物館が来歴を調べ、デザイナーがこのジュエリーのために設計した特別な例です。手元のジュエリーでは、部品の作りによって、同じ方法が取れるとは限りません。
元の作りが残っていることは、何を意味するか
今回のジュエリーでは、改作の前に王室コレクションが来歴を調べて記録しています。そのうえで、銀の層、1933年に加わったとみられる金の層、今回の受けという重なりを見ると、作り替えが重ねられてきたことを部品そのものからもたどれます。作り替えのたびに宝石を外し、古い金属を作り直していたら、こうした跡は残りません。
手元のジュエリーでも、宝石だけでなく、宝石を留めた金属の作りやデザインは、そのジュエリーがいつ、どのように作られたかを考える手がかりになります。王室の品のように記録が残っていることは少ないため、作りそのものが重要な手がかりです。一方で、手元の品は実物を見て、どこが元の作りかを確かめられます。
なお、作り替えたジュエリーの評価が上がるか下がるかは、何をどう変えたかによって異なり、一概には言えません。今回の王室のジュエリーについても、改作によって価値が上がった、あるいは下がったと言えるものではありません。宝石の評価とジュエリー全体の評価がどう関係するかは、「メトロポリタン美術館でティファニー工房の図面展 石を色と光で選んだ宝飾は、品質だけで価値が決まる?」で解説しています。
古いジュエリーの作り替えを考えるときは、どこが元の作りで、どこが後から変えられた部分かを先に確かめておくと、作り替えの方法を選ぶ材料になります。
作り替えについて、よくある疑問
Q. 宝石を留め替えたジュエリーは、元のデザインに戻せますか?
元の枠が残っていなければ、同じ姿には戻せません。元の枠を保管していれば、状態によっては留め直しを相談できることもありますが、一度起こした爪や縁の金属は元のとおりにはならないことがあり、まったく同じ状態に戻るとは限りません。元の姿を残したい場合は、作り替える前に、元の枠をどうするかを決めておく必要があります。
SHINKAについて
SHINKAは、宝石買取に特化した専門店です。古いジュエリーや、石が外れたジュエリーも査定・買取できます。
査定では、宝石だけでなく、貴金属や作り、デザイン、状態も含めて、ジュエリー全体を確認します。原則としてお客様の目の前で査定し、どこを見てその評価になったのかをご説明します。
作り替えを考えている古いジュエリーがあれば、宝石だけでなく作りも含めて、まずは価値をご確認ください。
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