フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》が14年ぶりに来日し、大阪中之島美術館で公開されました。会期は2026年8月21日から9月27日までです。
題名にもなっている耳飾りについて、所蔵するマウリッツハイス美術館は「本物の真珠にしては大きすぎる」とし、模造真珠の可能性を説明しています。一方、オランダの天文学者ヴィンセント・イッケ氏は、光の反射の仕方から、素材は銀か磨いた錫ではないかと指摘しました。
「本物の真珠ではない可能性」という方向では両者は近いものの、想定している素材は異なります。なぜ、同じ耳飾りを見ても、想定される素材が分かれるのでしょうか。その鍵の一つが「光り方」です。では、光の反射は、本物の真珠かどうかを判断する決め手になるのでしょうか。
参考記事
美術手帖「『フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日』(大阪中之島美術館)開幕レポート。17世紀オランダ絵画の傑作が集結」
美術手帖:https://bijutsutecho.com/magazine/series/s100/32919
なぜ同じ耳飾りから、想定される素材が分かれるのか

理由は、所蔵館とイッケ氏が別々の手がかりから同じ耳飾りを見ているためです。
所蔵館が手がかりにしているのは、大きさと当時の希少性です。同館は作品解説で、この真珠は本物にしては大きすぎ、おそらく模造真珠だとしています。ニスを塗って落ち着いたつやを出したガラス製の飾りかもしれず、画家の想像の産物という可能性もあるといいます。同館の学芸員は2014年、17世紀の真珠は天然のもので、大粒の真珠は希少で富裕層の手に渡ったこと、一方でヴェネツィア製が多い安価なガラスの真珠も流通していたことを解説しています。
イッケ氏が手がかりにしているのは、光り方です。耳飾りは白い絵具の2筆だけで描かれており、所蔵館によると、左上の明るいハイライトと、下側に映る白い襟の反射です。当時ライデン大学の理論天文学の教授だった同氏は2014年、この光り方に注目しました。同氏によると、真珠は薄い層が光を散らしたり曲げたりすることで、やわらかな白い光沢を生みます。ところが絵の耳飾りは、左上に強い反射があり、下側には襟がはっきり映り込み、暗い部分は肌や背景を映しているように見えます。同氏はこれを真珠らしくない光り方とし、銀か磨いた錫ではないかと考えました。
どちらが正しいかという話ではありません。大きさから考えるとガラスの模造品が、光り方から考えると金属が、それぞれ候補に挙がるということです。
もっとも、絵画から直接確認できるのは、耳飾りそのものの素材ではなく、フェルメールが絵具で表現した「見え方」です。描かれた大きさや反射から可能性を考えることはできても、絵だけからガラスなのか金属なのかまで特定することはできません。
「光り方」は、本物かどうかの決め手になるのか

イッケ氏が注目した「光り方」は、宝石学の側から見ると、真珠の評価で最も重視される要素の一つと重なります。
真珠の表面の光沢を「照り(ラスター)」といいます。米国の宝石学の研究・教育機関であるGIAは、照りを真珠の価値を左右する要素の中でもっとも重要になりうるものとし、5段階で評価しています。そのうち上・中・下の段階は次のとおりです。
- 最上位:映り込みが明るく、くっきりしている
- 中位:映り込みは明るいが、輪郭がややぼやける
- 最下位:映り込みが暗く、ぼんやりと広がる
同じ種類の真珠で他の条件が同じなら、照りが高いほど価値は高いとされます。
ここで、一見すると逆向きに見える二つの見方が並びます。イッケ氏は強い反射を真珠らしくない特徴の一つとしました。一方、GIAの基準では、照りの良い真珠ほど、表面に周囲の像が明るくくっきり映り込むことがあります。そのため、「映り込みがくっきりしている=真珠ではない」と、一つの特徴だけで単純に判断することはできません。
ただし、ここでGIAの照りの基準とイッケ氏の指摘を、単純な反対意見として捉えるのも適切ではありません。同氏の指摘は、強い反射だけを根拠にしたものではなく、下側に映る襟や、暗い部分に周囲が映り込んでいるように見える点など、複数の特徴を組み合わせたものです。単純化せずに読むと、同氏が問題にしているのは反射の強さという一点ではなく、見え方の組み合わせ全体だといえます。
照りには、真珠層(貝が分泌して重ねた、真珠をかたちづくる層)の状態も関わります。GIAによると、真珠層が薄いと内側の核が透けたり、白くぼんやりした見た目になったりし、照りだけでなく耐久性にも影響します。
GIA G.G.資格保有者の視点で整理すると、次のようになります。
照りの良い真珠は、周囲の像が明るく、くっきりと映ることがあります。そのため、反射が鋭いという一つの特徴だけで、真珠ではないと判断することはできません。今回興味深いのは、大きさ、時代背景、光の反射という異なる手がかりから、それぞれ素材が推定されている点です。宝石を見るときも、一つの特徴ではなく、複数の情報を組み合わせて考えることが大切です。
光り方は重要な手がかりの一つです。しかし、一つの特徴だけで素材を決めるのではなく、複数の情報を組み合わせて考える必要があります。
「本物か模造か」と「天然か養殖か」は別の話

真珠が本物かどうかを考えるときに混同しやすいのが、この二つの区別です。
天然真珠と養殖真珠は、いずれも真珠です。GIAによると、天然真珠は人の手を介さずに貝の体内で形成されたもの、養殖真珠は人が貝に核などを挿入し、管理しながら育てたものです。違いは真珠かどうかではなく、「でき方」にあります。これに対して「本物か模造か」は、真珠そのものか、ガラスなどで真珠に似せて作られたものかという区別です。
どちらの区別も、見た目だけでは判断できない場合があります。
手元の真珠を考えるときに通じること

ここまでは、絵画に描かれた耳飾りの話です。絵の中の表現しか確認できない《真珠の耳飾りの少女》と、実物を手に取って確認できる真珠とでは、条件が異なります。
一方で、見た目の一つの特徴だけから、本物かどうかや価値まで判断しないという点では、手元の真珠のネックレスやイヤリングを考える際にも通じる部分があります。
「よく光るから本物だろう」「くすんでいるから模造だろう」と、光り方だけで判断することはできません。照りは品質によっても変わるため、本物の真珠でも照りが控えめなものはあります。また真珠の価値は、照りのほか、大きさ、形、色、表面の状態、真珠層の質、ネックレスなら珠どうしの揃いを組み合わせて見ていきます。
本物かどうか、どのような真珠か、品質はどうか。この三つを分けて考えることが、手元の真珠を冷静に評価する入り口になります。
今回のニュースから考える、真珠の見分け方への疑問
Q. 真珠は見た目で本物かどうか分かりますか?
見た目は手がかりになりますが、それだけで確定するのは難しいといえます。照りのように品質によって変わる要素も多く、一つの見え方だけでは本物か模造かを決めきれないためです。
Q. 天然真珠と養殖真珠は、見た目で区別できますか?
見た目の印象だけで区別するのは難しいといえます。両者の違いは表面ではなく「でき方」にあり、評価への影響が大きい場合は鑑別機関の検査が判断の材料になります。
Q. 照り(光沢)が強い真珠ほど価値が高いのですか?
同じ種類の真珠で他の条件が同じなら、照りが高いほど価値は高いとされます。ただし価値は照りだけでなく、大きさや形、表面の状態、真珠層の質などの組み合わせで決まります。
SHINKAについて

名画の耳飾りをめぐる見方の違いは、一つの特徴だけで結論を出さないことの大切さを示しています。実物の真珠でも、照り、大きさ、真珠層、状態など、複数の要素を合わせて見る必要があります。
SHINKAは、宝石買取に特化したブランドです。真珠も査定・買取の対象で、実物を確認したうえで、なぜその評価になるのかという根拠まで含めてご説明します。
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この記事は公開前にGIA G.G.資格保有者が確認しています。

