2026.09.18

人工ダイヤモンドとは|天然と同じ物質でありながら識別できる理由

「人工ダイヤモンド」という言葉は、いま2つのまったく違うものを指して使われています。

ひとつは、成分も結晶構造も天然とまったく同じダイヤモンド。もうひとつは、ダイヤモンドに似せた別の素材です。この2つを同じ言葉でまとめてしまうと、判別の方法も、査定での扱いも、まるで見えなくなります。

宝石学では、前者を合成ダイヤモンド、後者を模造石と呼び分けます。

先に結論をお伝えします。

合成ダイヤモンドは、ダイヤモンドです。

中央宝石研究所(CGL)は「化学成分や結晶構造は天然ダイヤモンドと基本的に同じで、光学的・物理的特性も同一」としています。天然も合成も、炭素だけでできています。

違うのは生い立ちだけです。ただしその違いは、結晶の中に痕跡として残ります。だから専門的な分析で識別できます。

一方で、見た目・硬さ・熱の伝わり方では区別できません。同じ物質なのですから、当然です。

この記事では、名前の整理から始めて、同じ物質でありながらなぜ識別できるのかという原理まで説明します。

人工ダイヤモンドは、宝石学では「合成ダイヤモンド」と呼びます

合成石・人造石・模造石という3つの用語の違いを、実物の石を並べて示した図

まず、用語を整理します。中央宝石研究所は次のように定義しています。

「同種の天然石が存在する人工生産物は『合成石』であり、人工的に製造されたダイヤモンドは合成ダイヤモンドと呼称します。また、天然に対応物が存在しない人工結晶は『人造石』である」

この定義から、3つの言葉が分かれます。

用語定義ダイヤモンドでの例
合成石同種の天然石が存在する人工生産物合成ダイヤモンド
人造石天然に対応物が存在しない人工結晶キュービックジルコニア(天然に同じ鉱物が存在しない)
模造石別の宝石のように見えるため代替品として使われるが、化学組成・結晶構造・光学的特性・物理的特性が非常に異なる素材(GIA)ガラス・キュービックジルコニア・モアッサナイト

「ラボグロウンダイヤモンド」「人工ダイヤモンド」という呼び方も広く使われています。指しているものは合成ダイヤモンドと同じです。ただし後述するとおり、書類に記載する用語には国際的な決まりがあります。

「合成」と「模造」は、まったく別のものです

合成ダイヤモンドと模造石の違いを、実物の石を並べて示した図

ここが、多くの説明で混ざっている点です。

合成ダイヤモンド模造石
それは何かダイヤモンドそのものダイヤモンドではない別の素材
化学成分炭素(天然と同じ)酸化ジルコニウム・炭化ケイ素・ガラスなど
結晶構造天然と基本的に同じ非常に異なる
光学的・物理的特性天然と同一非常に異なる
識別の難しさ専門的な分析が必要特性の差が大きく、確認材料がそろいやすい

模造石は、ダイヤモンドの代わりに使われている別の石です。GIAの定義でも「非常に異なる化学組成、結晶構造、光学的特性および物理的特性を有する素材」とされています。

一方、合成ダイヤモンドは代わりではありません。ダイヤモンドとして同じ性質を持っています。

「人工だから偽物」ではありません。

偽物にあたるのは模造石のほうであり、合成ダイヤモンドは成り立ちが違うダイヤモンドです。

この区別が崩れると、「人工と聞いたから価値がないと思った」「ジルコニアと同じだと思った」という誤解につながります。査定の場でも、この2つはまったく別の扱いになります。

天然と合成は、成分も結晶構造も同じです

天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドのルースを並べたところ

中央宝石研究所の記述を、もう一度そのまま引きます。

「化学成分や結晶構造は天然ダイヤモンドと基本的に同じで、光学的・物理的特性も同一です。天然ダイヤモンドも合成ダイヤモンドも炭素だけでできており、熱伝導性はきわめて高く、屈折率は2.417」

ここから導かれることを整理します。

性質天然合成
成分炭素炭素
屈折率2.4172.417
熱伝導性きわめて高いきわめて高い
モース硬度1010(同じ物質のため)

輝きも、硬さも、熱の伝わり方も同じです。

したがって、熱の伝わり方を利用した確認方法では、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを分けられません。これは方法の精度が足りないという話ではなく、その手がかりでは原理的に差が出ないということです。

なお、モース硬度10は「傷つきにくい」という意味であって「割れない」という意味ではありません。硬度は傷や摩耗への耐性を表すもので、衝撃に耐える度合いを示す靭性とは別の性質です。GIAは、適切な場所を十分強く打てばダイヤモンドも割れるとしています。これは天然も合成も変わりません。

作り方は2通りあります

合成ダイヤモンドの2つの製法を、それぞれの結晶とともに示した図

合成ダイヤモンドの製法は、大きく2つに分かれます。

製法内容
HPHT法(高温高圧法)地球深部で天然ダイヤモンドができる高温高圧の環境を人工的に再現する。 非常に高い温度(1500℃程度)と高い圧力(5〜6GPa)を与えて合成する
CVD法(化学気相蒸着法)高温低圧下で、メタンガスなどの炭素を主成分とするガスからダイヤモンドを作る。 スライスしたダイヤモンドの種結晶の上に、炭素原子を降らせて沈積させていく

2つは、まったく違う環境で結晶を育てています。

HPHT法は天然と同じ条件を再現するのに対し、CVD法は天然には存在しない条件で作ります。この環境の違いが、次の章で説明する識別の手がかりになります。

違うのは生い立ちで、それが結晶に残ります

ダイヤモンドの内部に見える微細な内包物と成長の筋を拡大したところ

同じ物質なら、どうして識別できるのか。中央宝石研究所は、その理由をこう説明しています。

「生い立ちの違いが結晶の中にさまざまな不均一性として刻み込まれ、それを手がかりに両者の識別が可能」

成分は同じでも、育った環境が違えば、結晶の中に残る痕跡が違います。

天然ダイヤモンドは地球の内部で、長い時間をかけて、変化する条件の中で成長しました。合成ダイヤモンドは装置の中で、管理された条件のもと、短い時間で成長します。その履歴が、成長の縞・内包物の入り方・不純物の分布として結晶に刻まれています。

識別しているのは、成分ではなく履歴のほうです。

なお、識別が可能な状態と難しい状態は、加工の段階で変わります。

状態識別
原石結晶の形態が天然とは異なるため識別できる
カット・研磨後結晶の形態からは天然と識別ができなくなる

私たちが手にするダイヤモンドは、ほぼすべてがカット済みです。つまり実務でぶつかる場面では、形からの識別はすでに使えません。残るのは、結晶の中に刻まれた履歴を読む方法です。

無色の天然はⅠ型、無色の合成はⅡ型

天然か合成かを確定するまでの粗選別と分光分析の2段階を示した図

その履歴を読むための入口が、タイプ分類です。

ダイヤモンドは、含まれる窒素のあり方によってⅠ型とⅡ型に分けられます。中央宝石研究所は、この分類が粗選別に使えることを次のように示しています。

「無色の天然ダイヤモンドはほとんどがⅠ型で、無色の合成ダイヤモンドはすべてⅡ型です」

この差は、紫外線の透過のしかたに現れます。中央宝石研究所が開発した粗選別装置は、波長254nmの紫外線をダイヤモンドに照射し、その紫外線が透過したかどうかをセンサーで検知する仕組みです。

ただし、これはあくまで粗選別です。

段階何をしているか
粗選別Ⅱ型のものを拾い出す。Ⅱ型=合成、ではない(天然にもⅡ型は存在する)
確定紫外–可視領域・赤外線・蛍光X線分析、ルミネッセンス像の観察といった分光分析

粗選別で判断できるのは「詳しく調べる必要があるかどうか」までです。天然か合成かの確定は、分光分析の領域になります。

GIAも、分光技術を用いた選別機器を開発しています。GIAによれば、その装置はHPHT・CVD両方の合成ダイヤモンドと、キュービックジルコニアやモアッサナイトを含むすべての類似石を、天然ダイヤモンドから確実に選別できるとされています。

識別には、光の当て方を変えて内部を分析する専用の技術が必要です。

目で見て、あるいは石に触れて確かめる方法の延長線上には、この判別はありません。

書類の書き方には、国際的な決まりがあります

ジュエリーボックスの中に指輪と折りたたまれた紙が一緒に入っているところ

所有者にとって実務的に効いてくるのが、書類の扱いです。ここは上位の解説記事でほとんど触れられていません。

表記に使ってよい言葉が決まっている

2018年1月のガイドラインで、レポートに記載する用語が次のように定められています。

「”synthetic”, “laboratory–grown”, “laboratory–created” のみを使用するものとし、”lab–grown” や “lab–created” などの略語を用いてはならない」

日常では「ラボグロウン」のような略した呼び方が広く使われていますが、書類の上では略さない形が使われます。手元の書類を見るときは、この3つの語を探すことになります。

日本では、合成にグレーディングレポートを発行しない運用がある

もうひとつ、日本国内の運用として押さえておきたい事実があります。

「2018年末に合成ダイヤモンドに対するグレーディング・レポートの発行は行わないことが決定されています。鑑別書で対応し、簡易的な天然とは異なるグレード表記を行うことを認めています」

(AGL=宝石鑑別団体協議会の方針として、中央宝石研究所が記載)

つまり日本の加盟機関では、合成ダイヤモンドには、天然と同じ形式のグレーディングレポート(いわゆる鑑定書)が発行されません。鑑別書という別の書類で対応する運用です。

ただし、ここから逆を言うことはできません。

❌ 言えないこと✅ 言えること
鑑定書があるから天然だ日本のAGL加盟機関は、合成にグレーディングレポートを発行しない運用である
鑑別書があるから合成だ鑑別書は天然の石にも発行される。書類の種類だけで決まらない

海外では合成ダイヤモンド向けのレポートが発行されています。GIAもその一つです。日本の運用を、世界共通のルールとして読まないでください。

書類は重要な確認根拠ですが、それ単独で石種が確定するものではありません。発行機関と記載内容の両方を見る必要があります。

書類がない状態で査定額がどう変わるかは、鑑定書がないダイヤモンドの買取で説明しています。

手元の石が合成かもしれないとき

トレイの上に置かれたダイヤモンドの指輪・ペンダント・ルース

ここまでを、所有者の立場から整理します。

確認したいことできること
天然か合成か見た目・硬さ・熱の伝わり方では判別できない。分光分析が必要
模造石かどうか特性の差が大きいため、確認材料はそろいやすい
書類から確認できることsynthetic / laboratory-grown / laboratory-created の記載の有無。書類の種類だけでは決まらない

SHINKAでは、品物や確認したい内容に応じて、UV・特殊光源や比重測定、ダイヤモンドテスターなどを確認材料の一つとして使用することがあります。ただし前の章のとおり、これらで天然と合成を分けることはできません。

天然か合成かを書面で確定させる必要がある場合は、鑑別機関へお出しする案内をしています。自店の確認は買取査定のための確認材料であり、鑑別機関と同等の分析を行うものではありません。

石種が判別できていない状態のままで問題ありません。判別できていないことは、査定をお受けできない理由にはなりません。

自宅で確認できる範囲と、確認できない範囲の線引きは、ダイヤモンドの見分け方で詳しく整理しています。

確認のためにご自身で石を削ったり、枠から外したりしないでください。先に手を加えると、評価できたはずの価値が下がることがあります。そのままの状態でお持ちいただくのが確実です。

査定額がどう組み立てられるかの全体像は、ダイヤモンド買取で査定額が決まる仕組みにまとめています。

まとめ

人工ダイヤモンドは、宝石学では合成ダイヤモンドと呼ばれ、ダイヤモンドそのものです。化学成分も結晶構造も天然と基本的に同じで、光学的・物理的特性も同一。天然も合成も炭素だけでできています。

一方、ガラスやキュービックジルコニアなどの模造石は、化学組成も結晶構造も非常に異なる別の素材です。「人工」の一語でこの2つをまとめると、判別も評価も見えなくなります。

天然と合成を分けているのは生い立ちです。その違いが結晶の中に不均一性として刻まれるため、専門的な分析で識別できます。逆に言えば、それ以外の方法では識別できません。

書類については、次の2点を覚えておいてください。

  • レポートに使われる用語は synthetic / laboratory-grown / laboratory-created の3つ。略語は使われない
  • 日本のAGL加盟機関は、合成にグレーディングレポートを発行せず鑑別書で対応する運用。ただし書類の種類だけで石種は決まらない

次に確認していただきたいことは1つです。手元の石に、確認のための手を加えないこと。そのままの状態であれば、確認できることはいくつも残っています。

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この記事は公開前にGIA G.G.資格保有者が確認しています。

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