宝石の研究機関GIAの季刊誌『Gems & Gemology』2026年夏号に、パキスタン産のペリドットの中に、液体と、石を動かすと動く気泡が閉じ込められていたという報告が載りました。7.44カラットのカットされた石で、気泡を含む空洞は円筒形をしていました。
GIAは、円筒形の内包物はどの宝石でも珍しいと書いています。形だけで、なぜ珍しいと言えるのでしょうか。宝石の中の液体や気泡が何を記録しているのかとあわせて、専門家の視点で整理します。
参考記事
GIA「Two-Phase Inclusion in Peridot」(Gems & Gemology 2026年夏号 Micro-World)
GIA:https://www.gia.edu/gems-gemology/summer-2026-microworld-two-phase-inclusion-in-peridot
GIAが報告した、ペリドットの中の「動く気泡」
GIAによると、観察されたのは、カットされた7.44カラットのパキスタン産ペリドットです。石の中には液体で満たされた円筒形の空洞があり、その中の丸い気泡は、石を動かすと液体の中で動きました。空洞に液体と気体の2つが入っていることから、こうした内包物は「二相インクルージョン」と呼ばれます。
パキスタン産のペリドットは、ルドウィジャイトという鉱物の針のような結晶が中に入っていることで知られ、GIAはこれをパキスタン産の特徴的な内包物としています。今回の空洞も、その無数の針状の結晶に囲まれていました。GIAは、今回見つかったものを、それよりはるかに珍しいものとしています。
報告の写真は顕微鏡で撮影されたもので、写っている範囲(視野)は1.42mmです。
なぜ「円筒形」というだけで珍しいのか
内包物(インクルージョン)とは、宝石の中にある鉱物の結晶や、液体・気体で満たされた空洞のことです。GIAの解説によると、鉱物はできるときに、固体・液体・気体の異物を中に閉じ込めることがよくあります。
GIAの解説では、液体の内包物の形は、多くの場合、それを包んでいる宝石の結晶の形で決まるとされています。そのため幾何学的で角ばった形になりやすく、こうした空洞は「ネガティブクリスタル(負晶)」と呼ばれます。
今回の報告でGIAは、円筒は結晶の形に沿わないため、円筒形の内包物はどの宝石でも珍しいとしています。似た例としては、ピンクのユークレースという別の宝石の結晶で記録されたものが挙げられています。
つまり、GIAが珍しさの理由として説明しているのは、空洞の形です。動く気泡を含む液体の空洞そのものは、1672年に科学者のロバート・ボイルが石英の中に記述しているように、古くから知られてきました。
専門家の視点で読み解くと
内包物を見るとき、専門家は中に何が入っているかと同じくらい、その形に注目します。液体の空洞は、多くの場合、宝石の結晶の形に沿うため、形がそのルールに合っているかどうか自体が情報になるからです。今回の円筒形は、そのルールから外れていたことで、珍しい例として記録されました。
石の中の気泡は、なぜ生まれ、何を記録しているのか
GIAの解説によると、石が冷えていく過程で、内包物の液体は、周りの結晶よりも速く縮みます。その差が、地表付近の温度で気泡として現れます。
研究では、この気泡が手がかりになります。試料を少しずつ加熱し、気泡が液体の中に消える温度を観察すると、その内包物ができた当時の温度を推定できるとされています。GIAは、液体の内包物を、岩石や鉱物の歴史のある時点に存在した地質の流体の、実際のサンプルと位置づけています。
小さな気泡は、宝石が地中でどんな条件のもとで育ったかを伝える、記録の一つでもあるということです。
内包物は手がかりになるが、決め手になるとは限らない
GIAによると、内包物は、宝石が天然か合成か、処理されているかを判断するうえでも、産地を推定するうえでも重要です。内包物の観察と、基本的な物理的性質の記録を合わせることが、宝石の鑑別の基礎になります。
ただし、手がかりの強さは内包物によって違います。GIAの解説では、エメラルドの中のパリサイトという鉱物はコロンビア産であることを示す決定的な指標とされる一方、スリランカ産サファイアの中の長く細いルチルの内包物(シルク)は、産地の指標ではあっても決定的ではなく、判断材料の一つとされています。
手元の宝石の中に見える点や模様も、石が育つ過程で閉じ込められた記録の一部です。ただ、GIAは顕微鏡やルーペで内包物を観察することを、宝石の鑑別で最も重要な方法の一つとしています。手元の石の中に見えるものが何で、何を意味するのかも、拡大して観察しなければ判断できません。今回のニュースの内包物も、専門家が顕微鏡で観察した1件で、手元の石に同じものがあるとは限りません。
インクルージョンについて、よくある疑問
Q. 三相インクルージョンとは何ですか?
液体・気体・固体の3つを含む内包物のことです。今回のペリドットの空洞は液体と気体の「二相」でしたが、GIAの解説では、液体の内包物の中に固体(結晶)も含まれるものを三相インクルージョンと呼んでいます。エメラルドやトルマリンなどで見られることがあるとされています。
Q. 宝石の中に気泡があれば、天然の宝石だと言えますか?
気泡があるだけでは、天然とは言えません。GIAは、合成のスピネルやルビー、サファイアには、天然の宝石には見られない小さな球状の気泡があると説明しています。合成の宝石には、つくり方に特有の内包物があるとされ、天然か合成かは、内包物の種類や見え方を拡大して確かめることが手がかりになります。
Q. 内包物は肉眼でも見えますか?
大きさによります。GIAによると、内包物の大きさは1mmを超えるものから、顕微鏡でも見えないほど小さなものまでさまざまです。今回のペリドットの報告の写真も顕微鏡で撮影されたもので、写っている範囲は1.42mmでした。
SHINKAについて
SHINKAは、宝石買取に特化した専門店です。天然・合成・模造か分からない品物や、鑑別書のない品物も査定・相談できます。
店頭では、宝石の色や状態などを確認しますが、内包物から産地や処理を断定することはしません。それを確定するのは、鑑別機関の検査の領域です。原則としてお客様の目の前で査定し、どこまで店頭で確認でき、どこからが鑑別機関の領域かをご説明します。
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この記事は公開前にGIA G.G.資格保有者が確認しています。

