2026.10.12

人気ブランドの新作に「ダブレット」の石 天然石を使っていても「1つの天然石」とは限らないのはなぜか、GIA G.G.資格保有者の視点で読み解く

濃いグレーの台の上に、楕円形のカットされた宝石が一つ横向きに置かれている。上の部分は無色透明、下の部分は青紫色で、その間にまっすぐな境目の線が水平に通っている

ジュエリーブランドのアガット(agete)が2026年10月1日に発売した新作に、「ダブレットシリーズ」があります。紫金石にサンストーンを重ねたリングや、ラブラドライトとトパーズを重ねたチャームで、2つの石を貼り合わせた「ダブレットストーン」が使われています。リングの素材表記には、サンストーンと並んで「glass(ガラス)」とあります。

天然石を使った石は、それだけで「1つの天然石」といえるのでしょうか。2つを重ねた石は、1つの石と何が違うのでしょうか。

参考記事
株式会社サザビーリーグ「冬の光と静寂を閉じ込めたような新作コレクション。月明かりや朝露に着想を得たジュエリーが2026年10月1日(木)より順次発売」
The SAZABY LEAGUE News:https://www.sazaby-league.co.jp/news/691530

「ダブレット」とは、2つの部分を貼り合わせた石

GIA(米国宝石学会)は、2つ以上の素材を接着または融着して宝石の形にしたものを「複合石(アセンブルドストーン)」と呼び、そのうち2つの部分を接合したものを「ダブレット」と説明しています。3つの部分からなるものはトリプレットです。使われる素材は、天然のものも人工のものもあります。

今回の新作のリングは、紫金石とサンストーンを重ねた石です。サンストーンは、GIAによると、内部にきらめきを持つ長石のうち、宝石品質のものの一般的な呼び名です。一方の紫金石は、素材表記で「glass」とされているとおり、ガラスの素材です。

GIAによると、こうしたきらめきを表す「アベンチュリン」という言葉は、18世紀のイタリアで偶然生まれたとされる、きらめくガラス(アベンチュリンガラス、ゴールドストーン)に由来します。きらめいて見えるという共通点があっても、天然の長石とガラスは別の素材です。

なぜ、重ねた石は1つの石に見えるのか

ライトグレーの台の上に、同じ形・同じ色の楕円形の宝石が2つ並んでいる。左は上を向いて置かれ、全体が均一な青紫色の1つの石に見える。右は横向きに置かれ、上下の間に水平な境目の線が見える

GIAによると、ダブレットの貼り合わせ面は、石の上面にある大きな面(テーブル面)と平行に置かれます。上から見たときの色を均一に見せるためです。身に着けたときに見える方向からは、接合面が目立ちにくい作りになっています。

貼り合わせる目的はさまざまです。GIAは、ダブレットやトリプレットが天然石の模造に使われてきた一方で、必ずしも模造品ではないと説明しています。例に挙げているのはオパールで、薄い層で産出することがある天然のオパールを、ジュエリーに使える強さにするために裏打ちすることがあります。

今回の新作のように、ブランドが色や光の重なりをデザインとして見せるために石を組み合わせ、素材を明示して販売する例もあります。アガットは、ダブレットのチャームを、異なる表情を楽しめるリバーシブルデザインと説明しています。

つまり、ダブレットの上から見える姿は、1つの石に見えるように作られています。その石の正体は、正面の見た目だけでは決まりません。

天然の素材でも「1つの天然石」とは限らない GIAの2つの研究例

四角いカットの宝石。無色透明の3つの部分が、2本の薄い緑色の層でつながっている。上の面には緑色が映り込んでいる

GIAの学術誌「Gems & Gemology」には、見た目では1つの石に見えたダブレットの報告があります。

天然水晶を緑の接着剤で貼り合わせた石

GIAのニューヨークのラボが2025年に報告した例では、濃い緑色からエメラルドを思わせた石が、無色の天然水晶3つを緑色の接着剤で貼り合わせたものでした。緑色は接着剤の層の色で、水晶そのものは無色でした。

この石は、素材だけを見れば天然の水晶でできています。それでも、見る人が「緑の石」と受け取る色は、天然の石の色ではありませんでした。GIAは、こうした複合石は構成部品によって識別され、天然石の模造品と呼ばれることがあると説明しています。

天然エメラルド同士を貼り合わせた石

GIAの東京のラボが調べた緑の石は、一見すると天然のコロンビア産エメラルドに見えました。注意深く観察すると、ガードル(石の外周)の下に平らな接合面があり、面に沿って平たい気泡が並んでいました。内包物(石の内部の結晶や液体)は上下の部分の境目を越えておらず、長波の紫外線を当てると上の部分が下より強く赤く光り、境目がはっきり見えました。分析の結果、上下とも、エメラルドといえる緑色のベリルでした。

天然エメラルドを2つ使っていても、それは「1つの天然エメラルド」ではありません。

GIA G.G.資格保有者の視点で読み解くと

「天然石が使われている」ことと、「1つの天然石である」ことは、別々に確かめることです。ダブレットでは、上から見える色や光が、上の部分、下の部分、接着剤のどこから来ているかによって、石の正体が変わります。石の名前や見た目の印象を結論にせず、構成を一つずつ分けて読むことが、複合石を見るときの出発点になります。

手元の「天然石」のジュエリーにも当てはまること

グレーの石の台の上に、なめらかな銀色の金属の枠で側面をぐるりと包まれた楕円形の青紫色の宝石が置かれている。石の側面は枠に隠れて見えない

今回の新作は、ブランドが素材を明示して販売している商品です。一方、手元にある古いジュエリーや譲り受けた品では、購入時の説明が残っていないことが多く、「天然石」とだけ伝わっていることもあります。

ダブレットの接合面は、上から見て目立ちにくい向きに作られています。さらに、石の側面を金属の枠で包む留め方では、接合面が枠に隠れて見えないことがあります。上から眺めて1つの石に見えることは、1つの石であることの確認にはなりません。

反対に、ダブレットだから価値がない、とも決められません。複合石は必ずしも模造品ではなく、補強やデザインのために使われることもあります。ダブレットの評価は、1つの天然石としてではなく、どの素材がどう組み合わされているかと、貴金属・作り・ブランド・状態を含むジュエリー全体で考えることになります。

購入時の説明書や素材の表記が残っていれば、構成を考える手がかりになります。ただし表記は判断材料の一つで、表記どおりの構成かどうかは実物で確かめるものです。

ダブレットについて、よくある疑問

Q. 紫金石は天然石ですか?

紫金石は、一般にブルーゴールドストーンと呼ばれる人工のガラス素材です。「石」という字が付いていても、名前だけで天然の鉱物とは判断できません。

Q. ダブレットは偽物ですか?

一律にそうとはいえません。複合石は模造に使われる一方で、補強やデザインのために使われることもあります。1つの天然石として扱えるかどうかは、名前ではなく構成から確かめます。

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SHINKAは、宝石買取に特化した専門店です。天然・合成・模造のどれか分からない品物でも、査定・ご相談いただけます。

査定では、宝石だけでなく、貴金属・作り・ブランド・状態を含めてジュエリー全体を確認します。どこまでを店頭で確認でき、どこからが鑑別機関の領域かを分けて、評価の理由をご説明します。

お手元の「天然石」のジュエリーが、どのような石でできているのか。まずは価値をご確認ください。

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