スフェーンの弱点とは?硬度・靭性・安定性から見る割れやすさと扱い方

スフェーンは、ダイヤモンドを上回る分散度をもち、光を受けると石の内側で虹色が弾けるように輝く宝石です。その一方で、「傷つきやすい」「割れやすい」と説明されることの多い石でもあります。

ただ、その理由が「モース硬度が5〜5.5と低いから」の一言で片づけられていることがほとんどです。これは正確ではありません。

宝石の壊れにくさは、硬度・靭性・安定性という3つの別の性質でできています。スフェーンはこのうち硬度と靭性の2つに弱さを抱えており、しかもその弱さの中身が違います。傷がつくことと、割れることは、原因が別なのです。

原因が違えば、避けるべき場面も対処も変わります。この記事では、スフェーンの弱さを3つの性質に分けて整理し、そのうえで、日常でどこに気をつければよいのか、そして状態が査定でどう見られるのかまでを説明します。

スフェーンを扱ううえで守っていただきたいのは、超音波洗浄機とスチーム洗浄機を使わないこと、そして強くぶつけない環境を選ぶことの2点です。この2つを外さなければ、日常のリスクは大きく下げられます。

スフェーンの弱さは、3つの別々の性質からできている

宝石の強さは硬度・靭性・安定性の3つに分かれることを示した図

宝石が壊れにくいかどうかを、GIA(米国宝石学会)は「耐久性(durability)」という言葉で説明しています。GIAは耐久性を、摩耗・熱・光・家庭用薬品・湿度に耐える能力と定義し、これを次の3つの要素に分けています。

性質何に対する強さかスフェーンの状態
硬度(hardness)傷・すり傷に対する強さモース硬度 5〜5.5(低い)
靭性(toughness)割れ・欠けに対する強さ脆い(brittle)。加えて明瞭な劈開がある
安定性(stability)薬品・熱・湿度・光に対する強さ熱への感受性は中程度

スフェーンは、この3つのうち硬度と靭性の2つに弱さがある宝石です。

「傷がつく」と「割れる」は、原因が違う

多くの記事が硬度だけを取り上げるため、この2つが同じ話のように読めてしまいます。しかし実際には次のように分かれます。

起きること原因となる性質典型的な場面
表面に細かいすり傷が入る・つやが鈍る硬度ほかのジュエリーと擦れる、砂ぼこりのついた状態で拭く
パキッと割れる・角が欠ける靭性(脆さと劈開)硬い床に落とす、ドアや机の角にぶつける
変化が起きる可能性を避けたい安定性急な温度変化、洗浄機の振動と熱

スフェーンで特に注意していただきたいのは、2つめの「割れ・欠け」です。硬度の低さは日々の使い方で緩和できますが、割れは一度起きると元に戻せません。

硬度5〜5.5|どのくらい傷つきやすいのか

モース硬度は、「その鉱物が、別の鉱物に傷つけられるかどうか」を示す尺度です。数値そのものが強度を表すのではなく、順番を示す指標である点が重要です。

スフェーンの5〜5.5は、モース硬度の基準鉱物でいうと次の位置にあります。

モース硬度基準鉱物
10ダイヤモンド
9コランダム(ルビー・サファイア)
8トパーズ
7石英(水晶)
6正長石
5〜5.5スフェーン
5アパタイト

つまりスフェーンは、アパタイト(5)と正長石(6)の間にあたります。ダイヤモンド・ルビー・サファイア・トパーズ・水晶といった、よく知られた宝石はいずれも硬度7以上です。スフェーンはそれらより柔らかい位置にあります。

ここから導かれる実務上の注意は、「スフェーンより硬いものでこすらない」という一点に尽きます。硬い粒子を含んだものが表面を滑れば、その粒がやすりのように働き、細かい傷が残る可能性があります。

そのため当店では、汚れが気になるときはいきなり布で拭かず、先に水で流して落としてから手入れすることをおすすめしています。拭く動作そのものが、傷の原因になりうるためです。

硬度が低いことは、価値が低いことを意味しません。GIAはオパールやタンザナイトを「靭性がそれほど高くない宝石」として挙げていますが、これらはジュエリーとして広く親しまれています。硬度や靭性は「扱い方を決めるための情報」であり、価値の順位ではありません。

靭性|スフェーンには「割れやすい方向」が2つある

スフェーンには割れやすい向きが2つあることを示した図

靭性は、割れや欠けに対する強さです。硬さとは別の性質で、硬くても割れやすい宝石があり、柔らかくても割れにくい宝石があります。

スフェーンの靭性には、2つの弱点が重なっています。

1つめ|脆い(brittle)という性質

スフェーンは靭性の評価として脆い(brittle)に分類されます。割れたときの断面は貝殻状、つまり貝殻の内側のような滑らかな曲面になります。これは、力が加わったときに粘って耐えるのではなく、そのまま割れてしまう性質を示しています。

2つめ|劈開(へきかい)が明瞭にある

劈開とは、結晶の構造上、特定の面に沿って割れやすい性質のことです。GIAも、劈開を靭性上の弱点として位置づけ、強い衝撃で劈開面に沿って割れることがあると説明しています。

スフェーンの劈開は、鉱物学のデータベースで次のように記録されています。

結晶面劈開の程度
{110}明瞭(distinct)
{100}不完全(imperfect)
{112}不完全(imperfect)

このうち明瞭な劈開をもつ {110} は、単斜晶系の柱面にあたります。したがってスフェーンには、はっきりした「割れやすい方向」が2つあることになります。

ここは、上位で解説されている情報のなかでも記述が割れているところです。「1方向」と書かれている資料もあれば「2方向」と書かれている資料もあります。鉱物学のデータに立ち返れば、明瞭な劈開は {110} という1つの結晶面の組であり、実際の方向としては2つ、というのが正確な整理です。

劈開があるということは、実務上どういうことか

劈開のある宝石は、力の向きによって耐えられる強さが変わります。同じ強さでぶつけても、劈開面に沿った角度で当たれば割れ、別の角度なら無傷ということが起こりえます。

つまり、「これくらいなら大丈夫」という経験則が通用しにくいのがスフェーンです。ぶつける可能性そのものを減らす、という考え方が現実的です。

安定性|熱と光に対しては、どう考えるか

安定性は、薬品・熱・湿度・光に対する強さです。

スフェーンの熱に対する感受性は、宝石研磨の資料で中程度とされています。極端に弱いわけではありませんが、急激な温度変化は避けるのが無難です。

光については、注意深く扱う必要があります。「直射日光で退色する」と説明している情報もありますが、当店ではこれを裏づける確認済みの資料を保有していません。したがって、この記事では退色する/しないのどちらも断定しません。

そのうえで、これは多くの宝石に共通する保管の基本になりますが、直射日光の当たる場所や高温になる場所を避けて保管することをおすすめします。断定できない情報については、リスクの低い側を選んでいただくのが確実です。

超音波洗浄機・スチーム洗浄機を使ってはいけない理由

超音波洗浄機とスチーム洗浄機をスフェーンに使わないことを示した図

スフェーンの手入れで、最も明確に「してはいけない」と言えるのがこれです。超音波洗浄機とスチーム洗浄機は、スフェーンには使用しないでください。

理由は、ここまで説明した2つの弱点の両方に当たるためです。

洗浄方法何が起きるか関係する性質
超音波洗浄機細かい振動が石全体に加わり続ける。もともとある劈開やクラックを進行させる可能性がある靭性(脆さ・劈開)
スチーム洗浄機高温の蒸気にさらされ、急激な温度変化が加わる安定性(熱)

宝石によっては超音波洗浄機を使えるものもありますが、劈開が明瞭で靭性が脆い石では、リスクを取る意味がありません。

安全な手入れの方法

  • ぬるま湯中性洗剤を少量溶かす
  • 柔らかいブラシで優しく洗う
  • よくすすいで、柔らかい布で水気を取る

汚れが付着しているときは、こする前に流して落とすことを先に行ってください。これは硬度の項で説明したとおり、拭く動作そのものが傷の原因になりうるためです。

日常でスフェーンを傷めるのは、どんな場面か

弱点の中身がわかると、避けるべき場面も具体的になります。

場面主に効いてくる性質起きうること
ほかのジュエリーと一緒に保管する硬度硬い宝石に擦られて細かい傷が入る
手を洗う・水仕事をする硬度・安定性汚れが残った状態で擦れる
ドアノブ・机の角・手すりに当てる靭性欠け・割れ
硬い床に落とす靭性割れ
洗浄機に入れる靭性・安定性クラックの進行、急な温度変化
直射日光の当たる場所に置く安定性高温になる環境は避けたい

ジュエリーの種類による向き・不向き

GIAは、靭性の低い宝石について、不意の打撃を受けにくいジュエリーの種類を選ぶことを勧めており、イヤリングやネックレスをよい選択として挙げています。また、硬度の低い宝石は、日常使いではなく特別な機会に着用するという選び方も示しています。

スフェーンはこの考え方がそのまま当てはまる宝石です。

ジュエリーの種類相性理由
ペンダント・ネックレス向いている手の動きから離れており、ぶつかりにくい
イヤリング・ピアス向いている同上
ブローチ比較的向いている衣服の上で保護されやすい
リング注意が必要手は動きが多く、ぶつける機会が最も多い
ブレスレット注意が必要机やドアに当たりやすい

リングで身につけてはいけない、ということではありません。着用する場面を選ぶ、という考え方です。

傷や欠けは、査定でどう見られるのか

ここまで扱い方を説明してきましたが、すでに傷や欠けがあるスフェーンをお持ちの方もいらっしゃると思います。

結論からお伝えすると、状態は評価要素の1つですが、それだけで査定が決まるわけではありません。

当店では、宝石だけを単独で見るのではなく、ジュエリー全体として総合的に査定しています。

確認する項目内容
宝石そのもの色・透明度・内包物・カット・カラット
状態傷・欠け・摩耗
貴金属台座・枠に使われている素材
作り・デザイン仕上げや構造
ブランド該当する場合
鑑別書の内容お持ちの場合は重要な確認根拠として扱います
再販市場現在の需要

スフェーンの場合、傷や欠けが評価に影響しやすいのは、その石の魅力そのものであるファイア(分散による虹色の輝き)と関わるときです。スフェーンの分散度は0.051で、ダイヤモンドの0.044を上回ります。この輝きはファセット(研磨面)で光が反射・分散することで生まれるため、ファセット面の摩耗や欠けは、見え方に直接関わります。

一方で、目立たない位置の小さな傷が、輝き方をほとんど変えていないという場合もあります。同じ「傷あり」でも、状態の意味は個体によって違います。現物を見なければ判断できないというのは、そのためです。

なお、当店では次の状態のお品物も査定しています。

  • 欠け・割れのある宝石
  • 石が外れてしまったジュエリー
  • ルース(裸石)単体
  • 鑑別書・鑑定書がないお品物
  • 片方だけのピアス・イヤリング

「傷があるから見てもらえないのではないか」と考えて、そのままにしておく必要はありません。

なお、手元の石がスフェーンかどうか判断できない場合も、そのままお持ちいただけます。スフェーンは黄緑〜緑の色域でほかの宝石と見た目が似ることがあり、見た目だけで石種を断定することは避けるべきです。判断できない状態のままご相談いただけます。

状態を含めた評価要素の全体像は、スフェーンの価値は何で決まるか|査定で見る評価要素と価格差の理由で解説しています。

石種の判別軸については、スフェーンとペリドットの違い|分散と複屈折で見分ける2つの軸で解説しています。

まとめ

スフェーンの弱さは、次のように整理できます。

性質スフェーンの状態気をつけること
硬度5〜5.5。石英(7)より柔らかい砂ぼこりは流してから手入れする。ほかのジュエリーと分けて保管する
靭性脆く、{110} に明瞭な劈開がある(2方向)ぶつけない環境を選ぶ。リング・ブレスレットは場面を選ぶ
安定性熱への感受性は中程度超音波・スチーム洗浄は使わない。急な温度変化と高温を避ける

守っていただきたいのは、超音波洗浄機とスチーム洗浄機を使わないこと強くぶつけない環境を選ぶことの2点です。

そして、すでに傷や欠けがある場合も、その状態が評価にどう関わるかは個体によって違います。スフェーンは、その輝きの生まれ方まで踏まえて見なければ、状態の意味を判断できない宝石です。

お手元のスフェーンが今どう評価されるのか、一度確認してみませんか。

SHINKAでは、宝石そのものだけでなく、状態・貴金属・作り・鑑別書の内容まで含めて総合的に査定しています。査定は原則としてお客様の目の前で行い、なぜその評価になるのかをその場でご説明します。査定中のご質問にもお答えします。

  • 査定料・キャンセル料は無料です
  • 店頭・宅配・出張・LINE査定からお選びいただけます
  • 売却を決めていない状態でのご相談も承っています

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この記事は公開前にGIA G.G.資格保有者が確認しています。